う・そ・つ・き
でしゃばるつもりはなかった。
だけど
あの子が泣くのをもう見るのは嫌だった。
その、気持ちがインターフォンを押していた。
静まり返った廊下に音が響く。
返事が返ってくるまでのわずかな時間が緊張を呼ぶ。
「はい・・・」
―――このマンションに一人で来る日がまたあるなんて思いもしなかった。
「こんばんわ。ちょっといいですか?」
握り締めた掌に汗がじんわりと滲んでくる。
「・・ああ」
きっと彼は予測していたと思う。
いつか、あたしが乗り込んでくるって。
あたしたちの仲がいいことは承知のこと。
「レイか。珍しいな」
それでも彼は、とぼけた振りをする。
すっきりと整った少し薄暗い部屋。
そのままリビングに通される。
テーブルに広げられたままの参考書に年の差を感じる。
「コーヒーでいい?」
「どういうつもりなんですか」
返事もそこそこに口火を切る。
攻めなきゃ負ける。
なぜかそう思っていたから。
「なにが?」
「とぼけないで!うさぎのことに決まっているでしょう!!
あんな、あんな急に『別れる』なんて!!」
「ああ・・そのことか・・・。それについて話すことはなにもないよ」
うんざり。
そんな顔してる。
うさぎにもそんな顔しているのだろうか?
傷つきやすいあの子は、どんな気持ちで見たのだろう?
「うさぎの気持ち考えたことあるんですか?」
「・・・・いくらなんでも可哀想よ」
「俺のことは何とでも思ってくれていい。うさ・・・ぎとはもう終わってるんだ。」
「・・・うそつき」
うさこって言おうとしたくせに。
「うそなんて言ってないさ。彼女のことはなんとも思っていない」
抑えようとすればするほど、気持ちが競る。
「衛さん、何も変わってないわ!・・・あたしと付き合っていたころと一緒よ!」
「・・・・」
「どうしてそうやって自分の気持ちに嘘を付くの?あたしのときだって・・・
好きでもないのに付き合ったりして。
・・傷つけまいとしたあなたなりの優しさかもしれないけど、
余計・・つらいわ」
「・・・レイ」
「せめて、ワケだけでも話してやってよ。どういう理由があるのか。でないとあの子・・・」
「・・・一緒にいるのがつらくなった、それだけだよ」
うそつき・・・。
だったらなんで、目、伏せるのよ。
下、見ないでよ。
「お互い好きなのに別れなきゃいけない理由が私には理解できない!!」
前世じゃないんだから・・・。
うさぎが可哀想だ。
やっと、やっと幸せになれるはずだったのに。
前世から、あんなにもつらい思いを乗り越えてきたって言うのに。
「あの子から笑顔を奪わないで!!」
「ごめん」
泣くものか、そう決めていたのに。
抑えていたものが、その一言でプツリと切れた。
「帰る」
「レイ!」
「謝るならうさぎにしてよ!本当に悪いと思っているなら、うさぎが傷つかない方法を取りなさいよ!!」
思い切り強く締めたドアの向こうで
彼が苦しんでくれればいい。
それで
あの子の本当の笑顔が見れるようになるのであれば・・・。
僅かに冷たさを感じる夜気が頬に流れた涙の後を冷やす。
見上げた先の
すっかり暗くなった夜の空に、鋭くとがった三日月がうっすらと浮かぶ。
あの月が、丸くなる頃にはあの子の幸せそうな笑顔が見れますように。
そう、願わずにはいられない・・・。
アトガキ
何時書いたかすら憶えていない
Rの頃、うさぎの為に動くレイちゃん。
最近、“実写板レイちゃん”がTVに出てると
奇麗じゃ〜と見とれてしまう。